再生医療は、病気やけがで損傷した組織や臓器を修復・再生することを目指す医療技術です。これには、幹細胞(体内のさまざまな細胞に分化できる細胞)を利用した治療法が含まれます。再生医療は、難治性疾患や損傷した組織や臓器の修復に対する新たな治療法として期待されているだけでなく、新たな病気の発症予防や老化を遅らす効果も期待できるのではないかと考えられます。
現在、日本で行われている再生医療については、以下のような治療があります。
1.iPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いた再生医療:ノーベル医学賞を受賞された京都大学の山中伸弥教授らのグループにより作成され、特定の遺伝子を使って細胞の状態をリセットすることで、どんな細胞にでも変わる能力を持つ多能性を獲得した幹細胞で、受精卵から作成するES細胞(胚性幹細胞)と同様の能力をもつとされています。現在、目の難病である加齢黄斑変性症や神経変性疾患であるパーキンソン病などでの研究が進められていますが、いくつかの問題点もあり、一般の患者さんへの普及には、まだ少し時間がかかるものと思われます。
2.体性幹細胞を用いた再生医療:自分の身体の臓器や組織の中に存在する幹細胞を用いた治療で、間葉系幹細胞と呼ばれる脂肪組織や骨髄組織内にある幹細胞を取り出し、培養を行い大量に増殖させた上で、静脈内や局所に再投与する治療が行われています。
現在、もっとも多く利用されている、自己脂肪由来幹細胞を用いた幹細胞治療について簡単に説明を行います。
自己脂肪由来幹細胞を用いた治療は、自分の体から採取した脂肪を使って、さまざまな病気やけがの治療に役立てる方法です。この治療法は、以下のような手順で行われます。
- 脂肪の採取:まず患者さん自身の身体から脂肪を採取します。一般的には腹部や太ももから脂肪採取を行いますが、手術は脂肪吸引と呼ばれる比較的簡単な手術で、通常は局所麻酔で行われ、30分から1時間ほどで終わります。必要とする脂肪量は治療目的により変わりますが10~50gです。合併症としては、皮下の内出血がありますが、1ヵ月ぐらいで吸収されてしまいます。
- 採取した脂肪組織から酵素処理などで行い幹細胞を分離します。分離した幹細胞を細胞加工施設(CPC)で培養し、大量に増殖させます。培養終了後、細胞を回収し、使用するまで液体窒素で保存を行います。細胞を培養せずに特殊な機械を使用し、幹細胞を分離して、手術後すぐに幹細胞を投与する方法もありますが、治療に使用される幹細胞の数が少なく、十分な効果が得られない場合もあります。
- 幹細胞の投与:培養で増やした幹細胞を、点滴で全身に投与する方法の他、傷んでいる膝関節に注射し、軟骨や半月板の傷を修復したり、美容目的で顔などに注入して、肌の若返りを図ったりします。注意すべき合併症としては、肺塞栓やアナフィラキシーショックなど重大なものも報告されていますが、投与する細胞数を調整したり、安全な培養方法を取り入れる事で、ほぼ回避することが出来ます。
●幹細胞治療を行うメリット
- 安全性:自分の身体から、採取した細胞を用いるため、拒絶反応が起こることはなく、アレルギーのリスクも低いですが、細胞を培養する際に、自己血清や動物血清を用いている細胞加工施設もあるため、その場合にはアレルギーなどに注意する必要があります。
- 自然な治癒力の活用:幹細胞は身体の修復力を高めるため、自然な形での治癒を促進します。
- 多様な治療対象:神経の病気、免疫異常によって引き起こされる病気(自己免疫疾患やアレルギー)、糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病、抗炎症効果による関節や筋肉痛みの軽減、皮膚の老化予防など多彩な分野での効果が期待できます。
●デメリットと課題
- 費用:まだあたら新治療法で、確立されたものではなく保険適応がされず、幹細胞の培養にコストがかかるため、費用がかなり高額になってしまいます。
- 適応疾患:現在幹細胞治療の施行に当たっては、厳重な法的な管理がされており、施設ごとに、審査を受けて、厚生労働省に届出が必要になります。施設ごとに行える疾患や治療方法が決まっていますので、受診する前に十分な確認が必要になります。
- 効果の個人差:効果の現れ方には個人差があり、必ずしも全ての方に期待される改善効果がみられる訳ではありません。幹細胞の加工(培養)方法、投与する細胞数、投与方法、投与回数によっても効果の現れ方には差が生じます。
- 研究段階:現在も研究が進められ、日々新たなエビデンスが得られてきていますが、どの様な病気にどの程度効果がでるか、また長期的な効果や安全性についてもまだ解明されていない部分をあります。
このように、自己脂肪由来幹細胞を用いた治療は、今後の医療において非常に有望な技術で、今まで治療法がなかった病気の治療としても期待されるところです。しかしながら、現段階ではまだ、確立されていない面もあり、治療を検討する際は、専門医とよく相談することが大切です。
次回は、幹細胞を用いない、再生医療についてのお話です。